

人事や労務管理を担当される方にとって、「どこまでが合法で、どこからがNGなのか?」は非常に悩ましい問題ではないでしょうか。
本記事では、厚生労働省の通知・通達、そして実際の是正指導事例をもとに、実務で判断を誤らないためのポイントを徹底解説します。
そこで、今回は有給休暇の買い上げを厚生労働省が認めるケースについて紹介します!
📌この記事で分かること!
- 有給休暇の買い上げが原則NGとされる理由
- 厚生労働省が認める例外ケースとその条件
- 制度導入時の具体的手順と実務上の注意点
【結論】有給休暇の買い上げは原則NG、ただし例外あり
有給休暇の買い上げは、原則として法律上認められていません。
しかし、一定の条件を満たす場合に限り、例外的に買い上げが可能です。
実務で違法リスクを避けるために、まずはその前提を押さえる必要があります。
違反すると労基署の是正指導や罰則の対象になるため、例外の条件を正確に理解しましょう。
では、なぜ原則として買い上げは認められないのかから見ていきます。
「原則NG」とされる背景とは?労働基準法の立場
有給休暇の買い上げは、労働基準法上の「権利保護」の観点から原則禁止されています。
これは、労働者の健康確保と働きすぎ防止を最優先に考えるためです。
法律では、有給休暇は「取得して休む」ことが前提となっており、換金は例外とされています。
- 労働者の健康維持が目的
- 休む権利を金銭に置き換えない
- 企業の未取得助長を防ぐ
- 長時間労働の抑制
- 過労死対策の一環
たとえば、経営者が「有給を取らせず現金で済ませる」ようにすると、社員は十分に休めません。
結果的に、労働時間が増えて疲労や健康リスクが高まります。
こうした背景から、厚生労働省も「原則買い上げ禁止」を一貫して支持しています。
法律を軽視して制度化すると、重大なコンプライアンス違反になる可能性もあります。
まずは、企業として守るべき「原則」をしっかり理解しましょう。

買い上げが認められる3つの例外ケース
買い上げが法的に認められるのは、特定の3つの例外に限られます。
これは労働者に不利益とならず、法の趣旨に反しない場合に限って許容されます。
厚労省もこの点については、一定の柔軟性を持たせています。
- 時効により消滅する有給
- 退職時に残る有給
- 法定を超える有給
- 本人の希望と合意がある場合
- 就業規則に明記されている場合
たとえば、退職日までに有給を使い切れない場合に買い上げが行われます。
また、会社独自に設けた「法定外」の有給休暇は買い上げ対象とすることも可能です。
実際に大手企業では、制度として買い上げルールを導入している事例もあります。
ただし、いずれの場合も「労使合意」と「就業規則の整備」が前提条件です。
例外を適用する場合は、あらかじめ制度として明文化しましょう。

例外適用の際に必要な手続きと留意点
例外的に有給の買い上げを行う場合、必ず適切な手続きが必要です。
労使双方が納得したうえで、制度として明文化することが重要です。
厚生労働省も「書面化」と「明確な運用」を強く求めています。
- 就業規則に明記する
- 労使協定で取り決める
- 退職時は個別同意書を作成
- 買い上げ金額の妥当性を確保
- 税務処理の対応も確認
たとえば、退職時の買い上げを行う際は、本人の署名付きの同意書を必ず用意します。
内容には「買い上げ理由」「日数」「金額」を明記し、保管しておくことが必要です。
また、買い上げの金額が不当に低い場合は、トラブルの原因になります。
相場や社内の賃金テーブルと整合性が取れているか、事前にチェックしましょう。
さらに、買い上げによって支払われる金額は「給与」ではなく「退職金扱い」となるケースもあります。
社会保険料や課税対象になるかどうかを、顧問税理士や社労士と相談するのが安心です。

厚労省の見解は?明文化された「黙認」ライン
厚生労働省は、原則として買い上げ禁止の立場を崩していません。
ただし、例外的な状況や運用実態に応じて、一定の「黙認」ラインが存在しています。
企業の立場としては、この黙認ラインを正しく理解し、越えないことが大切です。
では、厚労省の通知や通達には、どのような判断基準があるのか見ていきましょう。
厚生労働省が示す通知・通達のポイント
厚労省は有給の買い上げについて、複数の通知で注意喚起しています。
その中で特に重要なのが「退職時」および「時効消滅分」に関する扱いです。
厚労省は「休暇の取得を前提とする」という立場を維持しつつ、以下のような例外を黙認しています。
- 退職時に残る有給の買い上げ
- 2年経過による時効消滅分の買い上げ
- 法定を超える特別休暇の買い上げ
- 年休の取得義務(5日)超過分の買い上げ
- 合意に基づく任意の支給
たとえば、「退職日が決まっており、取得が不可能な日数分」については、厚労省も実務上黙認しています。
これは「買い上げせざるを得ない」現実的なケースとして、容認されているものです。
ただし、会社都合で有給を取らせないまま現金精算するような制度化は、指導対象となります。
黙認ラインを超える運用は、リスクが大きいため避けましょう。

実際の是正指導事例から読み解く運用基準
労働基準監督署の是正指導事例を見ると、黙認ラインの実態が見えてきます。
買い上げに関する指導は、主に「制度化」「強制」「形骸化」に対して行われています。
つまり、ルールを守らずに運用した結果が「是正対象」になるということです。
- 取得を強制的に放棄させた
- 有給申請を認めず現金精算した
- 制度として買い上げを明記した
- 実質的に取得できない環境だった
- 取得の申請を無視していた
たとえば、ある製造業の企業では、有給申請をすべて却下して買い上げ精算していました。
このケースでは、「制度的に買い上げを常態化していた」として是正勧告を受けました。
また、運送業の事例では、退職時以外の買い上げを「ルール化」していたことが問題視されました。
厚労省は「個別合意」と「例外条件」を超える制度設計を厳しくチェックしています。
制度化されていない運用でも、結果的に取得機会を奪っていれば、指導対象となる可能性があります。

担当者が注意すべきキーワードとグレーゾーン
有給買い上げを検討する担当者は、「グレーゾーン」に注意が必要です。
とくに、厚労省があえて明文化していない部分にこそ、リスクが潜んでいます。
担当者はキーワードごとに判断基準を整理しておくことが重要です。
- 「時効」「退職」「法定外」=許容されやすい
- 「制度化」「全社員一律」=NGリスク高い
- 「本人希望」「任意精算」=状況次第で可
- 「取得義務5日」=買い上げ禁止
- 「黙示の合意」=書面なしは危険
たとえば、「本人の強い希望による買い上げ」であっても、労使の書面合意がなければ不適切と判断される可能性があります。
また、「年5日の取得義務」を現金精算で済ませることは、完全に違法です。
これを誤解して制度設計すると、労働基準監督署の監査で重大な指摘を受けかねません。
キーワードごとのリスク判断を可視化し、制度や運用に反映させておきましょう。

実務で失敗しないための3つのチェックポイント
最後に、実務で失敗しないための具体的なチェックポイントを紹介します。
制度を導入する際は、法律と運用実態の両面から抜け漏れなく整備する必要があります。
ここまで学んできた内容を踏まえて、導入フローを実務視点で整理していきましょう。
制度設計時の基本的ステップと社内手続き
有給買い上げ制度を設けるには、段階的に社内整備を行う必要があります。
感覚や慣習で運用すると、違法運用となる可能性が高いため注意が必要です。
制度設計には、実務で押さえるべき基本ステップがあります。
- 対象者と条件の明確化
- 買い上げ理由と背景の明示
- 買い上げ額と算出方法の設定
- 対象日数の上限と頻度の定義
- 導入目的と方針の社内共有
たとえば、「退職時のみ」「法定外分のみ」というように、制度の対象範囲をはっきりさせます。
そのうえで、買い上げ金額の計算方法(1日あたりいくらか)も明記しましょう。
就業規則改定や労使協議の段取りも、このステップで同時に検討しておくとスムーズです。
制度を形にする前に、全体設計と目的のブレがないかを必ず再確認しましょう。

就業規則への反映と労使合意の重要性
制度を導入する場合は、就業規則への明記が必須です。
これにより、買い上げ制度が社内ルールとして公的に認められた状態となります。
労使合意に基づいて、きちんと手続きを経ることがコンプライアンス上の基本です。
- 就業規則の該当条文を明示
- 労働者代表との協議を実施
- 意見書の作成・添付
- 労働基準監督署への届出
- 社内周知の徹底
たとえば、「退職時の残有給は1日1万円で買い上げる」など、具体的な内容を規定に記載します。
次に、従業員代表との協議を経て、意見書を添えて労基署へ提出します。
この届出を怠ると、就業規則の効力が法的に認められません。
また、内容を社員に周知する義務もあるため、社内説明会や書面配布も必要です。
とくに金銭が絡む制度は、誤解が生じやすいため透明性の確保が重要になります。

社労士に相談すべきタイミングとその理由
有給の買い上げ制度は、法律や通達の理解だけではカバーしきれません。
社内で制度を検討し始めた段階から、社労士に相談することが望ましいです。
とくに以下のような局面で、専門家の助言が大きな違いを生みます。
- 制度の適法性チェック
- 就業規則の文言精査
- 労使合意手続きの段取り
- 税務上の扱い確認
- 労基署提出書類の整備
たとえば、「退職時の買い上げ」と「時効分の買い上げ」で、適用条件や手続きは大きく異なります。
この判断を社内だけで行うと、法解釈の誤りや運用ミスが発生しやすくなります。
社労士は、最新の法改正や行政指導にも通じているため、制度導入時の心強いパートナーです。
相談は早い段階で行い、制度設計と並行してアドバイスを受けることをおすすめします。

まとめ 有給休暇買い上げの原則と例外を正しく理解しよう
今回は、有給休暇の買い上げが法律上どこまで認められているかについて紹介しました。
この記事のポイント!
- 原則NGだが3つの例外がある
- 厚生労働省の通知・通達で運用の線引きが見える
- 制度設計では手続き・就業規則・社労士相談が要
制度の導入や社内運用にあたっては、グレーゾーンを放置せず、事前にリスクと実務対応を確認することが不可欠です。

今後の法改正や実務指針の変化にも備え、厚労省の動向に継続的な注視をおすすめします。